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東京地方裁判所 昭和37年(ワ)5942号 判決 1963年10月25日

被告 滝野川信用金庫

事実

原告有限会社大喜工業所は請求原因として、訴外高一工業株式会社(以下高一工業と略称する)は、被告滝野川信用金庫中板橋支店に対し別紙目録第一の(一)ないし(四)記載の定期預金債権合計五〇万円及び別紙目録第二の(一)、(二)記載の定期積金債権合計一八一、八〇〇円右総計六八一、八〇〇円を有していたものであるが、原告会東は高一工業より昭和三七年五月二四日右預金債権全額を譲り受け、同日原告会社代表取締役加賀沢喜八、高一工業代表取締役高橋一郎及び新井敬之助の三名が被告金庫中板橋支店に赴き、同店支店長訴外藤田五平に右債権譲渡の事実を告げ、更に念の為、前記高橋一郎から同月二八日右藤田宛債権譲渡通知書に確定日附の押印を受けた上、内容証明郵便を以つて、預金債権譲渡の通知をなし、右通知はその頃同人に到達した。

右のように、本件預金債権の譲渡は、前記昭和三七年五月二四日原告会社代表者加賀沢喜八等三名が被告金庫中板橋支店を訪れた際同店支店長藤田五平から承諾を受けたものであるから、原告は本訴において、右譲り受けた預金債権全額並びにこれに対する支払ずみまでの遅延損害金の支払を求める、と述べ、

被告の抗弁に対する再抗弁として

本件預金債権に対し設定した権利質は、既に被担保債権が完済されているので消滅しているから被告は右預金の払戻義務を免れない。なお、被告は原告に対し、被告が預金債権譲渡を承諾した際に、右被担保債権が決済されたときは、預金債権の払戻期限の到来したと否とにかかわらず全預金債権の払戻をする旨の特約が原被告間に成立しているのであるから、被告は全額直ちに支払をなすべきである、と主張した。

被告滝野川信用金庫は抗弁として、

本件各預金債権には、被告金庫と高一工業との間で夫々譲渡禁止の特約がなされていたものであるから、高一工業と原告会社間の債権譲渡は被告金庫に対して対抗できず、従つて被告金庫は原告会社に預金払戻の義務はない。

仮りに右譲渡が被告金庫に対抗できるものであつたとしても、その当時被告金庫と高一工業との取引契約において預金債権には高一工業の被告金庫に対する手形割引による債務の履行を担保するため、以下に述べる如く質権が設定されていた。すなわち、別紙目録第一(一)の定期預金は昭和三六年一〇月二八日に、同(二)の定期預金は昭和三七年二月一二日に、同(三)の定期預金は昭和三七年二月二七日に、同(四)の定期預金は昭和三七年三月二九日に、夫々につき被告金庫を質権者、高一工業を質権設定者として質権設定を締結すると共に、高一工業より、定期預金証書及び担保差入証書を提出させ、夫々の定期預金証書の裏面の受取記載欄に預金者に届出の印章を受けて、これを被告金庫が保管し、別紙目録第一の(一)の定期預金については昭和三六年一一月八日に、同(二)、(三)については昭和三七年三月一日に、同(四)の定期預金については昭和三七年四月七日に、夫々の担保差入証書に公証人により確定日附をうけた。又別紙目録第二の(一)の定期積金は昭和三六年一〇月二八日に、同(二)の定期積金は昭和三七年三月二九日に、夫々につき被告金庫を質権者、高一工業を質権設定者として質権設定契約を締結すると共に、高一工業から定期積金証書及び担保差入証書を提出させ、夫々定期積金証書に担保の表示をなして、これを高一工業に返還し、別紙目録第二の(一)の定期積金については昭和三六年一一月八日に、同(二)の定期積金については昭和三七年四月七日に、夫々の担保差入証書に公証人により確定日附をつけた。

しかして、預金債権譲渡がなされた昭和三七年五月二四日当時、被告金庫は高一工業に対し四枚の手形(額面五〇万円支払期日昭和三七年七月六日振出人東京築炉株式会社なる手形二枚、額面二二五、二二七円支払期日昭和三七年七月一五日振出人有限会社大喜工業所、額面二五万円支払期日昭和三七年八月六日振出人東京築炉工業株式会社)を割引いたことによる金一、四七五、二二七円の債権を有しており、右金員は全額、預金債権につき設定した質権の被担保債権であつた、と述べ、

原告の再抗弁に対し、被担保債権中、額面五〇万円の二枚の手形は決済されたことは認めるが、その余は未決済であると否認し、預金債権の支払期限の未到来にかかわらず全額払戻をなす旨の特約の成立を否認した。

理由

原告主張の、高一工業が被告金庫に対して別紙目録(省略)第一(一)ないし(四)記載の定期預金債権及び同目録第二(一)(二)記載の定期預金債権合計六八一、八〇〇円を有していたこと、昭和三七年五月二四日原告会社が高一工業から右預金債権全額の譲渡を受けたこと、及び同日原告会社代表取締役加賀沢喜八、高一工業代表取締役高橋一郎、新井敬之助の三名が、右債権譲渡の事実を告げるため被告金庫中板橋支店を訪ね、同店支店長藤田五平と逢いその承諾を求めたことは当事者間に争いはない。そこで、被告主張の抗弁である譲渡禁止の特約の判断にはいるわけであるが、原告は被告の譲渡承諾を主張しており、もしその主張が認められれば右譲渡禁止の特約は問題とならないところであるから、先ず右支店長藤田が原告会社代表取締役加賀沢喜八等に対し預金債権譲渡について承諾をなした否かについて判断するに、証人新井敬之助の証言によれば、当時、右新井は城南信用金庫羽田支店の貸付係をしていたことが認められ、又右新井の証言並に原告代表者の尋問の結果から、原告会社は前記預金債権の譲受けを条件として城南信用金庫羽田支店から金員の貸付を受ける約束が、原告会社と訴外城南信用金庫との間に成立していたこと、原告会社代表者等が被告金庫中板橋支店を訪れた後、原告会社が訴外城南信用金庫から二〇〇万円の貸付を受けた事実がそれぞれ認められ、これらの経緯と証人新井敬之助の証言及び原告代表者尋問の結果を総合して判断すると、前記藤田は本件預金債権譲渡に承諾(但し後記質権付のまま)を与えたことを認めることができる。

しかして右預金債権について、被告金庫を質権者、高一工業を質権設定者として夫々質権設定契約が締結されていたこと、債権譲渡がなされた昭和三七年五月二四日当時、被告主張のとおり一、四七五、二二七円の被担保債権が存在したことについては当事者間に争いはない。従つて、昭和三七年五月二四日に、一、四七五、二二七円の被担保債権附預金債権が高一工業から原告会社に譲渡されたものといわなければならない。

そこで、原告主張の如く、右被担保債権が完済され消滅しているか否かにつき判断する。右被担保債権の内一〇〇万円(額面五〇万円支払期日昭和三七年七月六日振出人東京築炉工業株式会社なる手形二枚)がその後決済されていることについては当事者間に争いはないので、残りの四七五、二二七円について判断すると、(証拠)によれば高一工業は昭和三七年七月二日に解散したことが認められ、証人藤田五平同三浦綾夫の証言によれば、同月九月高一工業の清算人訴外栗田助一が被告金庫を訪れ、高一工業が被告金庫で割引いた二枚の手形(一、額面二二五、二二七円、支払期日昭和三七年七月一五日振出人有限会社大喜工業所、二、額面二五万円、支払期日昭和三七年八月六日振出人東京築炉工業株式会社)の買戻を申出、債権債務の清算を求めた時、被告金庫がこれに応じ、右手形金合計四七五、二二七円を、本件預金債権中より対等額で相殺することとして控除し、残余金と前記二枚の手形を右栗田に交付したことが認められる。

しかし、預金債権は、それ以前に原告会社に譲渡されたこと判示の如くであるから、右相殺は原告会社に対し何等の効力も生じないものというべきである。従つて、高一工業の清算人栗田は、手形買戻の代金を支払つたものと認めることはできず、被告金庫は依然として右代金を請求しうることは疑ない。しかしこのことは、被担保債権が消滅したか否かということとは別個の問題である。すなわち、高一工業清算人栗田と被告金庫の間で、手形買戻の合意が成立し、しかも被告金庫が右栗田に二枚の手形を交付したことは、この時点において両者間の手形割引による消費貸借を決済し消滅させる合意が成立したものと認めるのが相当である。故に原告主張の如く被担保債権は消滅しているものと判断する。

原告は、被告が預金債権譲渡を承諾した際、原被告間に、被担保債権が完済された時は、預金債権の支払期限の到来しているか否かにかかわらず全預金債権の払戻をなす旨の合意が成立したと主張するが、右事実を証明する証拠はない。従つて預金債権の払戻期日については、高一工業と被告金庫との間との間の約定が、原告に対してもそのまま妥当するものといわなければならない。そこで、各預金債権の支払期日及び遅延損害金の起算日について判断するに、(証拠)によれば、別紙目録第一の(一)記載の定期預金の支払期日は昭和三七年十月二八日、同(二)は昭和三八年二月一二日、同(三)は昭和三八年二月二七日、同(四)の支払期日は昭和三七年九月二九日であると認められ、従つて別紙目録第一(一)ないし(四)記載の定期預金債権については、夫々既に支払期日が経過していることが明らかであるので、被告は夫々その支払期日の翌日から支払ずみに至るまで年六分の割合による遅延損害金の支払義務を負うものと認める。又別紙目録第二(一)記載の定期積金債権については乙第七号証により昭和三八年十月二八日が支払期日と認められ、同(二)記載の定期積金債権については乙第八号証により昭和三九年三月二九日が支払期日と認められ、共に履行期未到来であることが明らかである。しかし、被告が原告の預金債権の存在を争つているので将来履行をなすべき時期に達しても履行をなさない虞が十分あると思料されるので、この点も併せ原告の請求を認容するを相当と認める。よつて原告の被告に対する本訴請求は右判示の限度において正当であるからこれを認容し、その余は失当としてこれを棄却することとする。

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